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失われる寛容さ

国際連合の「持続可能開発ソリューション・ネットワーク」が毎年発表しているレポートに、「世界幸福度報告(World Happiness Report)」というものがあります。2012年から(2014年を除いて)毎年公表されており、今年の3月に発表された2019年版で7回目となりました。

 この調査は、米ギャラップ社が世論調国連加盟各国で行った「自分の幸福度が0から10のどの段階にあるか」を答える世論調査によって得られた数値の平均値(という主観的データ)をベースに、①1人当たりのGDP、②社会的支援の充実ぶり、③健康寿命④人生の選択の自由度⑤寛容さ⑥社会の腐敗の少なさの6項目について個別に分析を加えたものです。

 今年のレポートにおいて、日本は昨年よりも4つ順位を落とし、156カ国・地域中58位と過去最低の結果となりました。(まあ、実際のところ)日本はこの調査でこれまで40位を上回ったことはなく、4年連続の50位台という低いレベルの状況にあることに変わりはありません。

 因みに、国民の幸福度1~3位は、昨年に続きフィンランド、デンマーク、ノルウェーの北欧3カ国が独占しています。欧州諸国がトップ10の大部分を占める状況は(こちらも)例年と大きく変わっていません。

 格差の拡大や階層の分断などが社会問題化しているとされるアメリカは(意外と良くて)19位、低所得の高齢者や若者の不満が高まる韓国は54位と日本よりも上位で、14億人近い人口を抱える中国は93位という状況です。

 3月20日の朝日新聞(「日本の幸福度、過去最低の58位」)によれば、アメリカは寄付大国だけあって「寛容さ」で12位。しかし、「健康寿命」が39位、「腐敗」が42位、そして「自由」では62位と低い結果となったことで上位進出を逃しているようです。

 参考までに記せば、「自由」の1位は意外にも旧ソ連のウズベキスタンで2位はカンボジア、3位がノルウェーだったということです。

 この調査は、あくまで国民の主観がベースとなっているため、過去の圧政から逃れたウズベキスタンやカンボジアでは、国民が自由のありがたみを強く感じているということなのかもしれません。

 一方、そうした意味で言えば、(58位に留まった)日本人の多くは、(客観的に幸福かどうかは別にして)世界の先進国の人々に比べ国民が幸せを実感していないということになるでしょう。

 日本は「健康寿命」は堂々の2位、「1人当たりGDP」も24位に入ったものの、「社会的支援」の50位、「自由度」の64位、さらに「寛容さ」の92位などが大きく足を引っ張ったものと考えられます。

 このうちの「自由度」は「あなたは自分の人生で自分がすることを選択する自由に満足か不満か?」という質問への回答結果が反映されたものです。(客観的に見れば、社会階層自体はそれなりに流動的で)他国に比べて人生の選択の範囲が決して狭いとも思えない日本の社会ですが、自己責任の名のもとで厳しい「制約」を感じている人々が日本には多いということなのでしょう。

 一方、この調査における「寛容さ」の比較は、「過去1ヶ月の間でチャリティにお金を寄付したか?」という質問への回答結果と一人当たりGDPとの比較によって示されるということです。 

 「チャリティ」自体がキリスト教的な「慈善」の感覚に基づくものなので、寄付額が多いか少ないかが「寛容さ」の指標になると言われてもなにやらピンときませんが、確かに昨今の日本人の間には「他人のために身銭を切って」という感覚は次第に失われつつあるかもしれません。

 チャリティばかりでなく、昨今のヘイトスピーチの横行やモンスタークレイマーの増加、SNSの炎上や芸能人へのバッシングなどを見ていると、どうやらそうした「不寛容」への流れは世界的にももはや止められないものなのかもしれません。

 既にヨーロッパの多くの国々では、移民排斥、国内第一主義のネオ・ポピュリズムを標榜する政治勢力が大きな力を持つようになっています。トランプ大統領のもと、自由の国アメリカまでもが、「アメリカ・ファースト」の名のもとに自国主義の道を強力に歩んでいる状況です。

 さて、(そんなことを考えていたところ)5月10日の時事通信が、「白人の3分の1、外国語「気に障る」」という(たった3パラグラフの短いものですが)気になる記事を配信しているのが目に留まりました。

 米国の世論調査機関「ピュー・リサーチ・センター」の調査によれば、公共の場で英語以外の言葉が話されるのを聞いて「気に障る」と感じる白人が、全体の3分の1に上ることが判ったということです。

 「大いに」「いくらか」を合わせ、米国成人の29%が公共の場で英語以外が話されることが気に障ると回答した。人種別の内訳では、白人の34%がそう感じると答えたほか、黒人の25%、アジア系の24%、ヒスパニック系の13%も同様に回答したと記事はしています。

 さらに、白人に限ると、気に障るとした割合は18~29歳では18%だったのに対し、65歳以上では実に45%に上ったということです。共和党支持層で特にその傾向が強く、白人の共和党支持者の47%が気に障ると答え、民主党支持者の18%を大きく上回ったと記事は説明しています。

 メキシコとの国境に壁を作ると公約したり、ムスリムは一人たりとも入国させないと発言したりしてきたトランプ大統領のもと、身近な場面での英語を話さない人(侵入者)の増加が気になる米国人は確実に増えているようです。

 人々の間から寛容さが失われているのは、やはり日本だけではないようです。

 経済格差の増大と多様な人種構成の中で、自由の国であったはずの米国社会にも新たな分断が生まれている。言葉の壁を挟んで人々の間に様々な摩擦や苛立ちが生じていることを示すこうした調査結果を、私たちは重く受け止める必要があるようです。






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